私が家を出てから随分時が経ったように思われる。

旅。仕事。新しい友との出会い。外の世界に目を奪われて、随分時を過ごしてきたようだ。地下鉄に飛び乗り、汽車に乗り換え、機上へ。ホテルの小部屋で目を覚ます。私の心は揺らぐ。これで、幸せなのかしら。

しかしである。私が、あちこち飛び回るのには理由がある。なつかしい知己や新しい友人の家を訪ねては、腰を下ろし、お茶をすすり、雑談に心弾ませる。暫くすると、その家の雰囲気に馴染み始め、家族のことも分かってくる。そこが誰の家であろうと、家ならばどこでも、私の心は癒される。

グローバル化や地域性、その他、デザイン職能にとっても大きな問題は枚挙に暇がない。しかし、今、家というものに注目したい。家庭という小宇宙。実は、ここに先端の学術研究を担うに足るあらゆる情報が詰まっている。一月の家賃、ローンはいくら？どんな生活用品を買う？インテリアについてはどう？ライフスタイルは？冷蔵庫の中身は？どんな娯楽を楽しむ？家は、あらゆるテーマの宝庫である。シンクタンクは、もちろん家族。台所、寝室、あるいは風呂場で、和気藹々、時に喧々諤々の議論が繰り広げられる。

家は、身体を休め、くつろぎ、楽しむ場所。考え事をしたり、もの事に熱中したり、敬うことを学ぶ場所。敬うとは、家族、自分、回りのものに心を尽くすこと。

今回、国際若手デザイナーワークショップでは、レクチャーの他に、様々な家庭形態のお宅に伺い、談話や質問を交え、ご家族と交流する。その後、自分達が見聞きし感じたことを整理し、プレゼンテーションを行う。文化交流の正に有効な企画である。同時に、私たちデザイナーの仕事とは、抽象的な何処かの誰かの為でなく、「家」に暮らす生身の人々の為であることを実感できる貴重な機会であろう。
名古屋で、日本や海外の若手デザイナーの方々とお会いできることを大変楽しみにしている。

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