今の時代の人間を未来の人間が振り返ったときに、僕らがいったい何をしているように見えるか想像してみると、「おもにモノを売ったり・買ったりしている時代」に見えるのではないだろうか。
20世紀の後半からそのサイクルが大変強くなり、その中でデザイナーの役割は企業の作るプロダクトや商品に、美的な価値や付加価値を与えることが中心になってしまった。
しかしそれはデザインの力の使い方の一面でしかないと思う。
今回の「未来のために」のテーマに果たしてどのような提案が出てくるか、大変楽しみにしていた。貧困の問題、環境、持続可能な社会といった、世の中で喧伝されている問題が多く取り上げられるのではないかと予測した。
そのことについて、自分自身が強い動機や実感を持っているわけではないのに、「世の中でこれが大事だと言われているからテーマに選ぶ」といった傾向が今の若い学生達に垣間見えることがあるが、それはつまらないと思う。
やはり自分自身の実感や生きていることの喜びにつながった提案にこそ魅力があり、グランプリの「てことば」はその力を持った作品であったと思う。
今回の募集テーマは「未来のために−まもる・すくう・できる」。審査を通して、いま世界中が同じ問題意識を持って前に進もうとしているということを強く感じた。
これほど共通して同じベクトルに向かっていることは、今までなかったように思う。
例えばエコをはじめ、社会生活、自然破壊、災害など、それぞれの問題に対して世界中が同じ方向を向いているということが感動でもあった。
1次審査の段階で、デザインとしてまだ十分に消化しきれずに2次審査に残らなかった作品の中にも、社会全体を変えてしまうような発想の作品がいくつか見られた。
応募者それぞれが変えていきたいと思っている問題をそれぞれが解決していけば、「きっと未来は明るい」というイメージが自分の中にも持てたコンペであった。
いま人類が同じ課題に直面しているということを、審査の過程でも実感した。名古屋で「COP10(生物多様性条約第10回締約国会議)」が開催された(※)が、今回のコンペのテーマとも連動している。
これまで「NAGOYA DESIGN DO!」というこのコンペの名称が変わっているなと思っていたが、審査を通して、この「DO!=やるぞ!」という意志こそがデザインには必要なのだということを改めて感じた。
COP10では「里山イニシアティブ」を日本が世界に提案した。もともと生物多様性が豊かであった日本であるが、生態系がくずれつつある今、もう一度里山を守り、生態系を守るための産業を興していこうという試みが始まっている。社会の変革がどんどん進み、たまねぎの皮が剥けるように新しい社会の概念となっていく。しかし人々はこれまでの習慣の惰性からすぐには転換できないかもしれない。
だからデザインの力でその転換を後押しし、勇気づけてほしい。
社会を変えるたくさんのアイデア、既成概念を突破するアイデアがこれからも「名古屋デザインDO!」に集まることを期待する。
※COP10開催期間:2010年10月18日〜29日
「未来のために まもる・すくう・できる Design to Empower Tomorrow」は素晴らしいテーマであったと思う。今、多くの問題を抱えている我々は、将来をデザインの力で変えていくために、そのソリューションを見つけていかなければならない。若いデザイナーがこのテーマをもとに、自分で問題を特定し、その問題にどのように取り組むのか、どうやって世の中を変えていきたいのかということを真剣に考えて、そして素晴らしい作品を応募してくれたことに感銘を受けた。
仕事をしながら、あるいは学校の課題とは別にコンペに参加することは大変なエネルギーが必要だと思うが、若いデザイナーたちが活躍していくためには、このようなコンペは非常に重要だ。
若い才能が世の中に認識されていくために、コンペという機会を提供していくことがこれからも大切だと思う。
グランプリ作品については、そのプロジェクトに作者がかけた時間と情熱に対して大変感動を覚えた。
また、その他の応募者の方々の熱意にも大いに感謝したい。
自分が学生であった20年ほど前、「未来のために」の後に続く言葉を問われたならば、「まもる・すくう・できる」のどれも答えとして挙げることは無かったと思う。危機感の無い平和な社会が、この20年でそれほど変化し、そこで生きる私達に求められることも大きく変わったことを認識せざるをえない。しかし、その「現在」に生きる若手のデザイナーから提案されたアイデアは、悲観的なものよりも、しっかりと正面を見据えた、地に足の着いたものが多く、逆にこちらが勇気付けられることとなった。グランプリ作品は、聴覚のハンディを補う為の「手話」をモチーフにしながら、作者自身が「手話」に美しさを見いだした様に、とても詩的で美しい表現を伴い、既知であったその行為を、別の視点から鑑賞することを追体験させてくれた。この作品を始め、応募作品の多くで、ネガティブな事象を、見事にポジティブなものへと変換させるマジックを見せてもらえたことが嬉しかった。
プロダクトデザインは今、環境や持続可能性の面から見て、製品の作りすぎや、本当に必要のあるものを作っているのだろうかという問題に直面している。「デザイナーは未来に対して何ができるのか?」が今回のコンペのテーマであった。
20世紀という時代は、いかに生産能力を上げて高品質のものをみんなが安く快適に使えるようにするかを目指したわけで、そのこと自体が悪いわけではない。しかし際限もなくつくった結果がさまざまな問題を引き起こしている。今、持続可能性に対してデザイナーが一番考えなくてはいけないことは、やはり未来に対して夢を語る具体的なイマジネーションの力だと思う。未来の社会がこうなっていったらいいという、ワクワクドキドキするイメージをみんなに具体的に示すプレゼンテーション能力が求められている。今回の応募作品を振り返えると、単なるモノの提案ではなくて、新しい感動や未来に対する気持ちの強さが感じられる作品に出会えた。
先が見えない時代ではあるが、皆のイマジネーションの力を合わせていけば、よい世界に向かって進んでいけるのではないかと強く感じる事ができたコンペであった。