学生設計コンペティション入賞入選作品展「持続可能な建築物−自然素材による驚きの解決策」
国際デザインセンターで開かれたコンペティション入賞入選作品展は、事前に東京・名古屋のデザイン大学との共同企画で行われたワークショップで綿密なオリエンテーションと討論がなされたものと思われ、テーマへの取り組みが真剣で、「自然素材による驚きの解決策」とスローガンが掲げられたように、展示会場には、サスティナブル建築のための素材活用のアイデア、手づくりを可能にする構造課題に納得のいく解決をもたらした作品が並んだ。模型制作も丁寧で、見応え十分、グラフィックパネル表現も密度高く、マルチメディアプレゼンテーションも併せ展開された。本企画の中核であるウィーン工科大学適合技術センター(GrAT)による実証実験プロジェクト「S-HOUSE」のコンセプトと建設過程も映像で紹介されており、この計画は翌日のシンポジウムでも詳細な報告がなされた。
展示初日の、シンポジウムの発表者が顔を揃えたオープニングパーティーでは、審査員から受賞者の表彰がなされ、クリエーター本人を交えたフリートークが行われた。
国際シンポジウム 「自然の叡智 オーストリアのデザインと建築」
シンポジウム参加者は翌朝9:30、名古屋駅に集合、バス3台で万博会場へ向かい、コモン4にあるオーストリア館に案内された。600名の申し込みがあったが、会場条件から120名に絞られたと言うことである。
パネリストはオーストリア側5名に加え、日本からのゲスト・竹山聖氏の6人。シンポジウムはR. ツェットル氏の、オットー・ワーグナーからアドルフ・ロースへたどるオーストリア建築史概観を日本との関係に視点をおいて語った発表で始まった。 つづく5氏のプレゼンテーションはそれぞれの立場、専門領域と活動に即した充実した展開がなされたが、通常の大学の1週間のプログラムに匹敵する濃密な内容をここに収録することはできない。
竹山氏はムンク、クリムト、ビアズレーの3つの絵画で「世紀末」感覚を端的に表示。近代のオーストリアの芸術風土−マーラー、ヴィトゲンシュタイン、フロイト、ココシュカの名に連なる、文学・音楽・学芸・思想世界の特質を語り、建築にはガラス・軽金属など工業素材の導入など国際モダニズム様式を取り込みながらも、視覚表現には象徴性、自然や人間との接点をうしなわない有機性、耽美のムードがウィーンらしさであると話した。さらに、自身のウィーン理解の土壌と日本的空間感覚から発想する自作建築例が、映像で紹介された。
ランチサービスと交流パーティーもあわせ、閉幕近くの来館者の殺到する中、120名限定のシンポジウムに6名の専門家を揃え、館スタッフ総動員で開催に当たったオーストリアの意気ごみは並々ならぬ力の入れ方で、これほどにもメインテーマを真っ正面に取り上げ本格的に展開した企画は、開催国日本にも絶えて見られないものであった。
S-HOUSEプロジェクト
S-HOUSEは、ウイーン工科大学GrATによる持続可能建築の実験的実施プロジェクトである。基本素材はストローベイル、藁梱ブロックを積み上げ、練土を噴射して土壁を作る。壁体安定と断熱性の高い空気壁を作るため、間伐材リブを平行にバイオプラスチック製のスクリュー(L380 φ28)でとじつけ、その上に木釘を使ってサイジングを施す。本体屋根と間隔を保つキャノピーで日照負荷を軽減、内部には熱効率、循環性適合のバイオマスストーブをおく。自然素材の最少使用で構造合理性を追求している。持続可能とは、建物単体のことをいうのではなく、環境全体のシステムのことである。
シンポジウムでは、このプレゼンに対し聴衆から地震対応について質問があったが、地震国としては当然の反応で、プレゼンタ−のローベルト・ヴィンマー・ウィーン工科大学適合技術センター(GrAT)所長からは、実施に当たって耐震、耐火、耐風性能について官立会いで実証確認がなされていると報告されたが、日本では新規素材技術採用には法規解釈に問題を残すと考えられる。
エコ建築は代用建築ではなく、美しく、経済的で快適空間デザインでなくてはならない。ウィーン側にはサスティナブルを時流スローガンではなく、これからの建築の必須の条件として受け止める真剣さがあった。[S-HOUSEの写真]