視察レポート 「トリノデザイン交流」

 
 内田 邦博
Kunihiro Uchida 株式会社国際デザインセンター専務取締役

 
マダマ宮殿屋上から望むトリノ市街  
 
スピーナ地区 熱エネルギーの集約システム  
 
ピニンファリーナ社のJason Castriota氏(右)と筆者(左)  

 名古屋市とイタリア・トリノ市の姉妹都市提携から2年目を迎え、デザインを通した両市の交流を図るため、トリノのデザイン事情の視察と、2005年10月に名古屋で開かれた両市のデザイナーによるポスター展の開催を目的としたツアーを実施した。

 トリノは、自動車関係者とスローフードに関心のある人以外にはなじみの少ない都市だが、知る人ぞ知るという意味で名古屋に近いかもしれない。中世のサヴォイア家の領地、ピエモンテ州の州都であり、150年前に都市国家郡が統一イタリアとなった時の最初の首都だったことは、バローロ、バルバレスコのワインや食べ物の美味しさとともにトリネーゼが必ず付け加える自慢の一つである。

 意外に知られていないがトリノはイタリア映画の発祥の地でもあり、鉄筋を使わないタワー建築としては世界一の高さを誇る教会、モーレ・アントネッリアーナを映画博物館として転用、多くの映画ファンと観光客を集めている。

 自動車産業の世界的競争が大手フィアットやカロッツェリア(自動車デザイン工房)の不振を招き意気消沈気味であったが、昨年の冬季オリンピックの成功をバネに国際マルチ都市として2次産業以外も強化、革新系市長・キアンパリーノ氏が都市周辺の再開発、郊外電車路線の地下埋設化、都市ガスをはじめとする熱エネルギーの集約・効率的分配などのさまざまな新施策を推進している。

 デザイン関係では、インターナショナル・デザイン・アライアンス(※)が認定する世界初のワールド・デザイン・キャピタルのパイロットプロジェクトに名乗りをあげ、2008年にはデザインイベントを開催する予定である。また2011年にはイタリア建国150年を祝って国家的なイベントを計画中とのことで、トリノ滞在中は市役所、学校、デザイン界の多くの関係者や旧友に会い元気なトリノの話題を収集できた。

 表敬訪問した市役所では、助役のDearessandri氏の熱のこもった歓迎の挨拶に続き、トリノ工科大学の教授、ICSID理事のプレゼンを受けた。名古屋市と国際デザインセンターからの答礼と懇談の後、観光では入れない中世に創られた議会室にも案内され、またその夜はトリノ市主催の晩餐会で参加者全員が歓待された。交流ポスター展は、市の中心部にある中世建築アンティキ・キオストリの一室で開催され、名古屋からの出品デザイナーたちもトリノでの展示会の実現に満足げだった。

 エクスカーションではオリンピック会場になったオーヴァルやパラ・イソザキ、選手村、フィアット工場跡を複合施設として再生させたリンゴット地区を見学、オリンピック施設総合開発責任者Sibille氏のガイドで、間に合わないのではないかと言われた施設建設の話を伺った。産業デザイン関係では、フェラーリのデザイン開発で世界的に有名なピニンファリーナと、同じく世界のカーデザインに影響を与えつづけるジウジアーロ氏率いるイタルデザイン、自動車博物館を見学したが、その素晴らしいプレゼンテーションからは現代に直結する自動車の歴史文化とその奥深さが感じられた。イタルデザインでは御大ジウジアーロ氏と懇談もでき、一同感激のひと時だった。

 機内を含め正味1週間の強行軍ではあったが、デザイン都市として文化的貢献をめざした両市と市民の交流と相互理解を深めることができた。今後も、文化、歴史の違いを乗り越えた活動を探り、実行する必要性を深く感じたツアーであった。最後にこの交流事業の開催にあたりトリノ市との交渉や現地での案内など多くの労をお願いしたFORUM社に深く感謝したい。

※インターナショナル・デザイン・アライアンス(IDA):グローバル・デザイン・コミュニティ実現のため、国際インダストリアルデザイン団体協議会(ICSID)と国際グラフィックデザイン団体協議会(icograda)が共同で設立した機構で、各々が単体ではなし得ないジャンルを超えた取り組みを推進している。




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