開催レポート
国際デザインセンター・デザインミュージアム+デザインギャラリーで、7月12日より24日まで開催された展覧会「岡本滋夫グラフィックデザイン展」+講演会は、好評の内に幕を閉じた。展覧会では、近年の個展や仕事を通じて多くの人が持つ「岡本滋夫」のイメージからは意外とも言える、プロダクトやパッケージの仕事も披露され、幅広い視野と力量を持った氏の世界をかいま見ることができた。講演会は「空間・構成・タイポグラフィ」「色彩・モチーフ・マチエール」の2つのテーマで開催され、代表的な作品を1点1点丁寧に取り上げることによって、岡本氏の鋭い視点と作品の裏側にある詳細な制作背景が語られた。報告にあたり、名古屋造形芸術大学学長・高北幸矢氏とともにコーディネーターとして講演会をまとめた、同学短期大学部教授・伊藤豊嗣氏にグラフィックデザイナーの視点から見た「岡本滋夫像」を聞いた。 | |||||||||||
見る者の感覚を波立たせるデザインの力 伊藤豊嗣〈グラフィックデザイナー/名古屋造形芸術大学短期大学部教授〉 |
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私が大学生活を過ごした1970年代の後半から、社会に出て仕事を始めた80年代前半は、岡本氏にとっては陶磁器デザイナーからグラフィックデザイナーに転向した最初の10年が過ぎ、次の段階の40代の10年という頃だった。特にこの時期、岡本氏はグラフィックデザインの有数の国際コンクールでたて続けに入賞。また、メルサ、春日井西武、PASCOといった企業との優れた仕事もこの頃からである。 学生時代、大学の研究室で会期の過ぎた展覧会などのポスターをいくつも手に入れ、下宿の壁に貼って眺めていた。その中には岡本氏のデザインがたくさんあった。その1つ「アメリカのイラストレーション展」の告知ポスターは、画面中央に大きな" i "があり、そのドットのところが絵具がしたたり落ちてはじけた形になっていた。黒の背景に赤、ピンク、青、緑の配色と白ぬき文字による構成。はじめて見た時、「あぁ、いいなぁ」と何ともいえない感覚にとらわれてつい見入ってしまった。「アメリカの様々なイラストレーションを紹介する展覧会だから、それを総称するように絵具や" i "をモチーフにしている」と、コンセプトは説明できる。しかし、その画面に強く引かれたのは、それを超えて、色、形、質感、空間、文字などの全部が相まって醸し出している何かによってだった。この頃の自分にとって、特にりんごを持つマネキンの手のメルサのポスターとこの1点は、見る者の感覚をザワザワと波立たせる力を感じさせられたデザインであり、今でもその印象を忘れていない。 今回の展覧会の直前に岡本氏の新たな受賞の報が届いた(第22回ブルノ国際グラフィックデザインビエンナーレ・ポスター部門賞)。受賞作は2003年の美濃和紙展告知ポスターで、抽象図形と色の滲みによる構成。和紙の持ち味を示す展覧会であることを、目に映る感触で伝えているのだが、この画面を見た時もあの何ともいえないザワザワを感じたことを思い出す。 声高にコンセプトをアピールしようとはしないが、確かにそれは踏まえられいて、その一方で視覚表現にこだわり、そこから立ち上がってくる匂いが強い発信となっている。長いキャリアを経ても変わることのない岡本氏のデザインへの姿勢が、また新たな実績を積み重ねた。見る側に一歩入りこんでいくこの匂いを持ち得ることが、コミュニケーションの中で大きな力になることを、あらためて思い知らされた。 |
岡本滋夫グラフィックデザイン展 名古屋造形芸術大学名誉教授就任記念
会期=7月12日(水)~24日(月)11:00~20:00/会場=国際デザインセンター4Fデザインミュージアム+デザインギャラリー
◎会期中無休◎一般300円・学生200円/入場者数=1,056人
●オープニングパーティ
7月12日(水)18:00~/展覧会場内にて/参加者数=118人
●記念講演会
第1回「岡本滋夫の空間・構成・タイポグラフィ」対談:岡本滋夫×高北幸矢/7月15日(土)14:30~16:00/参加者数=45人
第2回「岡本滋夫の色彩・モチーフ・マチエール」対談:岡本滋夫×伊藤豊嗣/7月22日(土)14:30~16:00/参加者数=56人