アメリカン・アールデコ・コレクション

2014.05.01
 
 

コレクションシリーズ vol.12

プラスチックデザイン30s「アール・デコの花形素材」

プラスチックデザイン30s「アール・デコの花形素材」(フライヤー・イメージ)

プラスチックデザイン30s「アール・デコの花形素材」(展示会場)

プラスチックは誰もが知るように、19世紀末の技術革新とともに登場し、20世紀にかけて世界を席巻した。特有の鮮やかな色彩、成型のしやすさは、デザインの世界に従来の素材ではなし得なかった可能性を開いた。ことにアメリカにおいては、1930年代から40年代にかけてアール・デコの流行とともに個性的なデザイン製品が生み出され、後年のアメリカン・ライフ・スタイルに大きな影響を与えることとなった。

プラスチックの歴史は19世紀半ばのヨーロッパに遡る。天然ゴムを原料に開発が始まり、1907年には天然原料を使わない完全な合成素材といえる「フェノール樹脂」がアメリカで開発、製造技術の急速な発展とともにベークライトやルーサイト、ナイロンや塩化ビニールなど、多種多様なプラスチック素材が登場する。これらの新素材はそれぞれの強度や色彩の表現力、また透過性などの特質を生かし、多様な分野に取り入れられていった。

例えば1920年代から30年代のメディアの主役、ラジオに使われたベークライトは、この分野に機能性だけでなく高い装飾性をもたらし、インテリアを飾る“ファッションアイテムとしてのラジオ”を誕生させる。プラスチックの自由な成型によって大胆に流線型を取り入れた形状、独特の色彩は、道具であるラジオをコレクションアイテムの地位にまで高めた。

また、汚れにくさと強度を生かしたキッチン用品においても、プラスチックは陶器や金属とは異なる自由な色と質感を実現、食卓に従来にない軽やかで陽気な華やかさをもたらす。キッチンをあふれるほどの色彩で埋める感覚は1950年代にかけて人気を集めるが、1940年にラッセル・ライトがデザインしたレジデンシャルディナーセットに代表されるカラフルな食器セットは若いカップルを中心にヒット商品となった。

プラスチックの豊かな表現力はファッション分野においても大きな力を発揮した。当時女性の社会進出を背景に拡大しつつあった宝飾品分野では、いち早くプラスチックが取り入れられ、初期には宝石の代価品として、1930年代に入るとプラスチックならではの形や色彩を生かしたアクセサリーや小物が多く登場する。幾何学モチーフのヘアアクセサリーやブレスレットはモダンなスタイルとして最新のファッションを身にまとう女性たちに多いにもてはやされた。

主な作品

プラスチック製ラジオ、ポーカーチップ、時計、ブレスレット トランプ型灰皿

プラスチック製ラジオ、ポーカーチップ、時計、ブレスレット/1930年代
カラフルな素材を使ったラジオや時計、ブレスレットなどのプラスチックグッズ。こうした装飾性の高いラジオは凝ったデザインでインテリアの飾りとしても人気を集めた。(写真上左)

トランプ型灰皿/1930年代
プラスチックを型で成型しトランプの形にした灰皿。このほかにハート型、スペード型もある。加工の容易なプラスチックはこうした遊び心あるデザインを生んだ。(写真上右)

プラスチック製ネックレス ハンディ・バキューム・クリーナー

プラスチック製ネックレス/1930年代後期
透明度の高いプラスチックとマーブル模様のプラスチックを組み合わせた華やかなネックレス。花をモチーフにしたプラスチックならではの造形は個性的で可愛らしい。(写真上左)

ハンディ・バキューム・クリーナー/1940年代初期
電化製品が広く家庭に普及したのは1930年代から1940年代にかけての事。冷蔵庫や掃除機は当時の一番の人気商品だった。流行の流線型をベークライトで成型している。(写真上右)

ドレッサーセット アイロン

ドレッサーセット/1930年代初期
マーブレットと呼ばれた美しいマーブル模様のプラスチックでできたドレッサーセット。大理石を思わせる質感に金色の幾何学模様がより豪華な雰囲気。(写真上左)

アイロン/1936年
ベークライトのハンドルがついたアイロン。こうした家電製品には耐久性や成型のしやすさでプラスチックが好まれた。ハンドル部分は流線型のデザイン。(写真上右)

コーヒーサーバー プラスチック製ヘアーアクセサリー

コーヒーサーバー/1937年
1930年代に人気だったメタル素材とプラスチックを組み合わせたデザイン。新素材を使い未来的で斬新なフォルムでオブジェのようなコーヒーサーバー。(写真上左)

プラスチック製ヘアーアクセサリー/1920年代後期
べっ甲のような透明度の高いプラスチックで本体をつくり、髪に差した時に見える部分には印象的な赤いラインストーンを使用。エレガントでモダンな髪飾り。(写真上右)

レジデンシャル・ディナーセットとベークライト製カトラリー プラスチック製イヤリング

レジデンシャル・ディナーセットとベークライト製カトラリー/1930年代、1950年代
1940年にラッセルライトがデザインしたディナーセットは1950年代に商品化、ヒット商品となった。カラフルなプラスチック製カトラリーなどと組み合わせて使用された。(写真上左)

プラスチック製イヤリング/1930年代初期
プラスチックの一種セルロイド製のイヤリング。熱を加えて花びら型にプラスチックを曲げ、さらにラインストーンを埋め込んで華やかさを演出している。(写真上右)

パフュームボトルケース ビルディング型ライター

パフュームボトルケース/1937年
ガラスの香水ボトルを階段状におさめるケースは流線型と階段形状が特徴的なアール・デコ特有のデザイン。ベークライト部分の深い緑色が印象的。(写真上左)

ビルディング型ライター/1930年代中期
階段状の形状はアール・デコの特徴の一つ。黄色いプラスチックと赤いラインストーンが女性にも似合いそうなライター。当時女性の喫煙はファッションの一つとして流行した。(写真上右)

デザインミュージアム・コレクションシリーズ vol.12
「プラスチックデザイン30s」ーアール・デコの花形素材
アメリカン・アール・デコ・コレクション・シリーズ展、vol.12は、新素材として1930年代に社会に浸透し20世紀のデザインに大きな影響を与えた「プラスチック」に着目、当時の生活用品約100点を展示、公開。人々の生活をモダンかつ華やかに彩った数々の作品を通して、プラスチックが大衆の文化を担う素材として広まった1930年代を振り返り、新素材の開発にかけた当時の社会のエネルギーとデザイン感覚を紹介。

会期:2007年3月14日(水)~4月22日(日)
会場:国際デザインセンター・デザインミュージアム
主催:株式会社国際デザインセンター