アメリカン・アールデコ・コレクション

2013.02.15

ノーマン・ベル・ゲデス

大型客船オーシャンライナー(プラン)/1930年代

大型旅客機エアライナーNO.4(プラン)/1930年代

カクテルシェーカーとスナックトレイ/リヴィアー社/1934年


 


デザイン:ノーマン・ベル・ゲデス(3作品とも)

デザイナーという職種が広く認知され、職業として成り立つようになったのはそれほど昔のことではない。「第一世代のデザイナー」は1920年代から30年代にかけ登場した。製造の手が人から機械へと移行するなかで、ことに産業の発展著しいアメリカでは、機能や意匠によって市場のニーズを具現化するデザイナーが幅広く活躍した。従来にない技術や製品が続々と登場したこの時期、モノをつくることは直接的に人々の生活を、社会を変えることを意味していた。デザイナーは次世代のライフスタイルを提示する貴重な存在でもあったのだ。
 当時のデザイナーの一人、ノーマン・ベル・ゲデスは、著書「ホライズンー地平線」の中で極めて未来的な大型客船や旅客機のプランを紹介している。ゲデスはこれらのプランをはじめ、シカゴ博覧会で提案した空中レストランなど、新しいデザインが次なる生活を導くことをわかりやすい形でみせたデザイナーだった。
 注目すべきは彼の名前が異なる分野にも残されていることであろう。当コレクションに残るテーブルウェアの中に、まったく古さを感じさせないモダンなカクテル・シェーカー・セットがある。当時の新しいメッキ加工技術を全面に施したこの作品は、シンプルな中に直線や階段状の意匠を取り入れ、細部にまで洗練された感覚を伝えている。輸送機器やレストランの設計を手掛けたデザイナーが、日用品においてここまでの繊細さを見せることはある意味驚きである。分業化が進んだ現代では、他分野において美的感覚を持たない、あるいは持とうとしないつくり手に出会うことが珍しくないからだ。私たちの生活は二次元、三次元、あるいはファッション、IDといった分野ごとに仕切られているわけではない。すべてが混在して空間を形づくり、私たちはその中で泳ぐように日々の生活を送っている。モノづくりが多様化し、モノがあふれる現代にこそ、分野を問わず通用するデザインセンスを期待したい。