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2013.02.15 |
スカイスクレーパー・ラジオ
ブラックラッカーとコバルト・ブルー・ミラーの美しい幾何学形体。高さは約130センチ。家具?置物?実は大型ラジオである。ラジオという情報媒体が時代の先端を行くものだったころに、広い玄関ロビーやホールを飾ったのであろう。シンプルでありながら豪華でモダンな雰囲気を漂わせる逸品だ。漆を思わせるブラックラッカー仕上げや鮮やかな青い発色が特徴的なミラー使いは1930年代のアメリカで流行したスタイルの一つだが、何よりこのラジオを特徴づけているのは個性的な形状である。階段状の形はアール・デコ期の特徴的な幾何学的なパターンだが、そのイメージソースは摩天楼(スカイスクレーパー)のビル群のフォルムからきている。
20世紀初頭、アメリカがもっとも早くヨーロッパのアール・デコ・スタイルを取り入れたのは、建築分野であった。1890年代から1910年代にかけて建設技術の進歩は都市部の開発を促進し、巻き起こった建築ラッシュに対応するため1916年には、ニューヨークゾーニング法が制定された。高層ビルの道路に面した高さを規制するこの法を機に生まれたのが、道路から階段状にセットバックするジグザグ型のビルだったのである。条件をクリアするためのアイデアは、幾何学形態を特徴とするアール・デコ・スタイルと絶妙なタイミングで組み合わさり、ニューヨークには底部から屋上の装飾にいたるまで幾何学的な形状をふんだんにあしらった高層ビルが林立することとなる。
スカイスクレーパーとは直訳すれば「空を削るもの」という意味である。まさに名前どおりのその姿は強烈なイメージを与え、ジグザグのデザインスタイルはさまざまな製品に流行のパターンとして用いられることとなった。摩天楼モチーフの人気は当時アール・デコ発祥の地、フランスにも飛び火する程だったが、流行が去ったあともなお、この時期のビル群はその存在感と美しさで愛され続けた。クライスラービルやエンパイヤステートビルなど代表的な建築物は現在でも手厚く補修され保存されている。摩天楼の林立するマンハッタンがその美しさと存在感の大きさ故に近年記憶に生々しい悲劇の対象物とされたことは、皮肉としか言いようがない。