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INTERVIEW:登録企業の魅力をご紹介

有限会社 後藤デザインオフィス

工業デザインを行う後藤デザインオフィスは、クライアントの商品をデザインするだけでなく、様々な事業連携をディレクションし、商品の開発をサポートしてきた。そんなデザイナーである後藤氏にディレクション側の立場から事業連携について話を伺った。

CURIO写真

  • 聞き手:後藤さんのデザイン、ディレクションで、中小企業新事業活動促進法に基づく「異分野連携新事業分野開拓計画」で認定されたベビーカーの開発が少し前に話題になりましたね。名古屋三越 栄店でも販売されているのを見かけましたが、このような事業連携についてお話をお聞かせ下さい。

Q.事業連携のきっかけはどんな所からですか?

  • 後藤:そうですね。事業連携の話は色々ありますが、一つの事業者から相談を持ち込まれるケースが多いですね。高橋製瓦のベビーカー「CURIO」はその一つです。
    また、官公庁や支援機関が主催する事業によるマッチングがきっかけとなった場合もあります。現在、開発の終盤にさしかかっているiPhone用拡音器「瀬戸音(セトーネ)」はその例です。陶器メーカーIMARUYOと地域の特産品の開発を行うコーディネーターPPS両企業と連携して開発を進めています。この「瀬戸音(セトーネ)」は中部経済産業局主催のマッチング事業がきっかけでした。
  • 瀬戸音CGおよび瀬戸音展示会写真

Q.持ち込まれた課題をどのように連携し、実際の開発に繋げていくのですか?

  • 後藤:純粋にメーカーが独自の素材や技術を持っていて、ある程度の規模があり、自社で全てを解決できれば連携する必要はありません。しかし、中小企業はそこまで資金力も開発力もない場合が多いです。
    また、自社の力だけで他ブランドとの差別化や新たなビジョンを組み立てるのはとても難しいことです。
    それを踏まえ、弊社は相談に応じています。相談に来る方は、市場に対して新たな優位性をデザインで創ろうとしています。ですから、こちらも色々なアプローチをして、その可能性を広げていきたいと考えています。そして、具体的で魅力的な製品アイディアとして落としこむ中で、イメージを可視化していきます。
    そのイメージをプロトタイプとして制作する過程で、他のクライアント企業の技術を活用したり、官公庁や支援機関の開発助成制度を利用したりして商品化まで繋げていきます。
    先ほどの例ですと、ベビーカー「CURIO」は岐阜県や岐阜市、また中部経済産業局の支援を活用しました。事業連携先の獲得も岐阜県のネットワークにより実現しました。また、現在最終段階に入ったiPhone用拡音器「瀬戸音(セトーネ)」も名古屋市のデザイン活用支援事業を利用し、製品プロトタイプを展示会で披露するに至りました。

Q.ベビーカー「CURIO」の開発ストーリーを簡単に教えてください。

    CURIOショールーム写真
  • 後藤:高橋さんは瓦屋の跡継ぎですが、新事業として製品開発を行いたいと考えており、ベビーカーの開発を相談にみえたのが出会いです。ものづくりにそんなに詳しくなかった高橋さんに不安もありましたが、色々話をしているとモノを見極めるセンスの良さを感じました。当初は双方で色々構想を練り、デザインと設計は弊社で行いました。試作段階に至り、岐阜県のネットワークにより紹介していただいたパイプ加工の技術を持つ前田工業の協力を得ました。そして、中小企業新事業活動促進法に基づく「異分野連携新事業分野開拓計画」の認定を受け、新連携支援事業に採択され開発を行いました。まさに少数精鋭のプロジェクトで、各専門分野の担当者が自分の分野の仕事を決めて取り組みました。

Q.成功のポイントはどこですか?

  • 後藤:やはり、少数のメンバーで開発を行い、横串が入りにくい環境でできたことで「鋭くてブレないモノづくり」ができたのではないでしょうか。その部分が特徴になって、他との差別化や将来ビジョンの構築につながったと思います。デザインの分野について意見を言わせてもらえば、大手企業のプロジェクトではデザインを多数決で決めることがよくあります。その場合、こちらが敢えて付けた差別化の要素を営業上の障害と見なして排除してしまうなど、製品デザインとしてエッセンスとなる部分を無くしてしまいがちです。それがこのプロジェクトでは全くありませんでした。それは大きな成功要因だと思います。

Q.重ねて聞きますが、うまくいく事業連携のポイントは何ですか?

    CURIO感性価値デザイン展写真
  • 後藤:先ほどの話につながりますが、エンドユーザー向け商品をイメージした場合、やはり少数精鋭メンバーでの開発が鍵になってくると思います。そして、デザイン視点から言わせてもらえば、アドバンスした製品開発をどこまで行えるかということになってきます。例えば、ISOなどの基準は確かに大事なことですが、そこを順守するあまり、様々な可能性の芽を摘んでしまうのは好ましいことではありません。肝心の差別化できる部分までリスクと見なされ、その部分を排除することで商品の個性が失われてしまいます。また、連携によるものづくりならではですが、全ての企業が分業で協力関係にあります。したがって、各企業が平等を主張し、全てについて意見し合いがちですが、それはかえって危険で、それによりリスク排除に向かってしまうことにも気をつけなくてはいけません。ディレクションを行う上で意見を平均化するのではなく、餅は餅屋に任せるといった調整ができるか否かが成功への分かれ目になると思います。
    特に中小企業のものづくりは大手メーカーとは違い、個性的な方向性を目指してこそ商品価値が出ると思います。その辺を意識して開発したのがベビーカー「CURIO」やiPhone用拡音器「瀬戸音」ですね。
    弊社は、特徴を創り、それを活かして開発できるかを考えてデザインしていますが、開発の主体となる企業にとっては専門分野の連携先の担当者を信頼して任せられるかが鍵になると思います。
  • 瀬戸音写真
  • 聞き手:さて、話の方向性を変えてお聞きします。
    事業連携をして(消費者向けの)商品を開発するときに小さなイノベーション(※)を起こすことが必要になると思いますが。
    ※青色LEDを開発するような、今までにないものを作るのではなく、少しの変化を集めて新たな商品にするといった内容を指す。

Q.デザイナーが小さなイノベーションを起こすことに向いている点はありますか?

    瀬戸音成形体写真
  • 後藤:フリーランスの場合、やはり、持ちかけられた相談に対して初めは初心者である点でしょうか。
    それを説明するにはiPhone用拡音器「瀬戸音」の事例が良いですね。最初のマッチングでは本当に短期間でイメージを優先したフォルムを作りました。が、その提案ができたのは陶器の作り方をちゃんと知らなかったことが大きいと思います。勿論、鋳込みという手法は知識として知っていたつもりでしたが、その後の工程の乾燥や型抜きなど、やってみると多くの問題が発生しました。また、実際にはiPhoneをはめる部分のケーブル類の取り回しなども問題になりました。多分、陶器のことを熟知していたら、こんな大胆で面倒な形にはしなかったでしょう(笑)。知らないが故に提案できる勇気は大きな利点ですね。
    ただ、こういった面倒な形を提案するのは、面白いからだけではなく、少しでも長く市場価値のある商品を作りたいと考えているからです。生産の難しさは同時に製品コピーのプロテクトにもなります。簡単にできない製法で作ることにより、真似されにくく、そして価格を下げずに市場で戦えるメリットがあります。

Q.後藤デザインさんは結構尖ったもののあるデザイン提案をされるように思いますが…

  • 後藤:はい(笑)。デザインするときは意図的に他と差別化する要素を探します。また、製造過程で超えるべきハードルを高く設定します。そうすることにより、市場に出たときにそのデザイン独自性を少しでも長く維持し、他社からの真似を防ぎます。単に形が違ったり、機能が付いたりするのでは弱いですからね。
    でもね、差異を探しているだけのデザインでは今後の展望はそれほどないと思います。それはそれで必要なことではありますが、ユーザーにとって無駄なものをいっぱい作ることになってしまうかもしれない。やはり、原点をちゃんと理解して、将来のビジョンを見据えたものづくりがこれからは大切だと思います。
    つい最近行ったデザインセミナーではこの点をはっきり訂正しました。「今までのデザインは『他との差異を発見しオリジナリティを創ることだ』って言っていましたが、間違いでした。これからのデザインは『将来ビジョンがあって、それを実現するための理想的な形に成立させることです』に変えました。今まですみませんでした(笑)」

Q.その他の連携事例はありますか?

  • 後藤:メーカーからの依頼に競合するデザイナー同士が連携し、一つの商品をデザインしている事例もあります。例えば、弊社には女性デザイナーはいませんので、プロジェクトで女性視点の必要性を感じるときは外部の女性デザイナーと連携します。
    やはり、市場における独自性や将来のビジョンを模索する中で、ユーザー視点が大変重要です。自分たちにその視点がない場合は、無駄な仮説や微妙に異なるイメージを積み上げるより、やはりその視点を持った外部のデザイナーと連携することで効率良く自分たちの強みを活かすことができます。

Q.今後の展望について教えてください。

  • 後藤:弊社のクライアントの中小企業同士を結びつけて活性化させたいですね。今どきは一企業が一つの商品を開発するだけでは推進力が小さいと思います。推進力を上げるには、もっと大きな世界観が必要なんです。今後、事業連携によるものづくりで技術や素材の連携に新しいビジョンを吹き込んで、大きな枠組みで市場に出さないと、なかなか存在感をアピールできない時代になってくると思います。
  • 後藤氏がデザイン指導を行う様子の写真