タル・グール
Tal Gur
   1962年生まれ。タル・グールは、過去20 年間キブツのメンバーである。デザインの媒体として、ローテーションモデリング技術によって形成されたポリエチレンを用いており、地元イスラエル文化への傾倒は、そのデザイン制作が、地元で手に入りやすい技術・素材や生産設備を基にしていることにあらわれている。

  ロラン・バルトは、そのプラスチックの素材に関するテキストで「単なる物質以上に、プラスチックはその無限の変形の認識そのものである」と述べている。この哲学はタル・グールの創作に体現されている。過去の作品においてグールは重機産業向けのローテーションモデリングの技術に挑戦し、それを用いてプラスチックの素材を、新しく洗練された表情を持った家庭用品に変化して見せた。その作品はアートを意図したものからインダストリアルデザイン製品にまでわたっている。

  ひとつひとつの作品は、使い捨てのできる簡略な型で成形されているために、個性的な表情を持っている。型は2つの部分の合成を基本としており、幾通りもの組み合わせが可能である。一方で、固定型の製品はインダストリアルデザインの領域に属している。
  タル・グール作品「シュロンスキー」

「シュロンスキー」
(“シンプル・ジェスチャー”シリーズより)
Shlonsky, from Simple Gesture series
2002年
ポリエチレン
ローテーションモデリングと手作業
直径28cm×高さ60cm
 ”シンプル・ジェスチャー”のシリーズでタル・グールは、同じ要素を用いながらも新たな体系を生み出している。この新作では、新しい型を作らず、その代わり既にある作品を利用している。過去の作品の断片を歪曲させ、分解あるいは切断し、プラスチックの表面に素朴な子供の落書き風のスケッチを加える。

  これらの作品はイスラエルでもっとも偉大な詩人の一人である、アブラハム・シュロンスキーの詩に想を得ている。その詩は、ヘブライ語の母音字を使って人の顔を描く簡単な方法を歌ったものである。その単純な容貌は、日本の「へのへのもへじ」にも似て、普遍的なもののようである。
 
  グールの遊び心にあふれた照明は「平凡であることに甘んじる、初めての魔法の物質」、つまり「それはバケツにも宝石にも成り得る」(ロラン・バルト「神話作用:プラスチック」)というロラン・バルトのプラスチック素材の可能性についての記述を具現化しているかのようである。
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